「ATOK 2015」では、先読み変換による入力効率の向上(打鍵そのものの省力化)や日本語ならではの豊かな言い回しを教えてくれる連想変換といった機能が目立っていたのに対し、「ATOK 2016」では、さらに細かく使い勝手が強化されたという印象だ。なかでも典型的なのが「ATOKタイプコレクト」。メーカーによる機能紹介では「ありがとう」と入力するつもりが間違って一列ずつ隣をタイプしてしまい、「sとhsyぴ」となってしまうような例でも正しく変換してくれるという点がアピールされている。
筆者などからすると「何もそこまでしなくても」という過保護っぷり(?)な印象を真っ先に受けたが、冷静に考えてみるとタッチパッドの利用が進んで、物理キーボードを使う機会が減ってくれば、「キートップの突起でホームポジションを確認する」こともなくなりかねないわけで、案外、この先重要な機能となるのかもしれない。
もっと現実的な面でも、今回搭載された機能はなかなか興味深い。まず「ATOKインサイト」だが、これは仕事などにより直結した入力支援機能で、Webブラウザやメールソフトなど、そのときに表示されているアプリケーションから抽出した語句を優先的に変換候補とするもの。単語登録や辞書切り替えの手間も必要なく、その場に応じて候補を使い分けられるのは画期的だ(ただし、すべてのアプリケーションで利用できるわけではないようだ)。
「ATOKイミクル」となると「文章入力」という枠すらはみ出してしまい、閲覧中の文章も辞典検索ができてしまう。もちろん「選択した語句をWeb辞書で検索する」といったものではなく、「ATOK」の連携辞典を直に引くので手間もかからない(ちなみに「ATOKイミクル」は「ATOK」の言語バーとは独立して、タスクトレイアイコンの形で常駐する)。
「ATOK 2015」での連想変換から今回の「ATOKイミクル」へと続く展開をあらためて見ていると、「知っている言葉を使って文字を記録する」というレベルを超えて、もっと幅広く「言葉を知り、表現を身につけるツール」という段階へ進みつつあるようだ。読書を通じて言葉を学ぶのと同じように、これからは「『ATOK』を通じて言語感覚を育む人も出てくるのかなあ」と、そんな感慨にとらわれた。
(福住 護)