ジュブナイル・青春・紀行小説といった趣の力作ビジュアルノベル。二人の少年が夏休みの間滞在することになった、養蚕を主要産業とする郷での生活と、そこで経験した切ない恋が丁寧に語られてゆく。特に郷における養蚕をすべての中心に置いた厳しい暮らしぶり――労働と食生活、そんな生活の中でのちょっとした息抜きや楽しみ、喜びなどが文章とグラフィックでリアルに生き生きと描かれ、作品世界にグイグイと引き込んでゆく。作品に登場するキャラクタはみな、とても個性的で、物語を盛り上げる。敵役である天狗のどら息子やその親たちの下種っぷりもすばらしい。目の前にいたら引き裂いてやりたいほどの嫌らしさだ。ややテンプレ気味の部分もあるが、そこがむしろ本作をわかりやすく、おもしろいものにしているように思える。
最後にはちょっとした能力バトルもあり、ドラマの盛り上がりも十分。ボリュームもあり、読み応えたっぷりの作品だ。
ただ、強いて不満を挙げるなら、本作品では錯綜したドラマのいずれにおいても明確な結末が描かれていない。どのように決着したのか、もしくは決着するのかは読者自身が想像で補うか、発表が予定されている次回作(本作の15年後が舞台となるらしい)で描かれるのを待つしかない。であれば、楽しみに待つことにしよう。
(秋山 俊)