ソフトを開発しようと思った動機、背景
「作りたかったから」──これに尽きます。さらに言えば「誰かに楽しんでもらう」といった理由も私にはありませんでした。私にとってゲームは、絵や小説や音楽と同じく、芸術作品です。そして、ゲーム制作は私の自己表現のひとつです。- 「何の為に生きるのか」
誰でも一度は考えたことがあるはずです。答えは人それぞれでしょうが、私の答えはこうです。- 徹頭徹尾、いついかなる時も、自分の為に生きる。
私がソフトやゲームを作る時、その理由は自分の為、利己的、自己中心的だと言えるでしょう。もちろん、自分一人では自己表現はできません。それを見る人が必要です。だから、その為のコミュニケーションツールとして、プレイヤーを作者の世界へと呼び込むことのできるゲームは非常に有効だと思います。私の作品が誰かの記憶となり、信念が僅かでも血肉となり得るならば、それが何よりの喜びです。幸福への扉は自分一人では開けられませんが、自分以外に開ける者もいないのです。自分が死力を尽くした時、誰かが内側から開けるのです。
開発中に苦労した点
一番の苦労といえば、モチベーションの維持でしょうか(笑)。モチベーションさえ続いていれば、あと2年は早く完成していたと思います。制作過程においては苦労の連続です。さまざまな仕掛けや演出、オブジェクトの挙動。
さきほど、作品は自己表現だと述べました。これはアイデアを白紙のカンバスに叩きつけるようなものです。したがって、作品は私のチャレンジの歴史でもあります。私は成果主義なので、過程における苦労は口外無用。その人の胸の内に仕舞っておけば良いと思ってます。作者がどんな苦労をし、頭を悩ませたかはプレイヤーの皆さんには知る由もないですし、知る必要もないでしょう。ですが、私に限らずクリエイターは、そんな苦労をしているのだということをユーザは頭の隅にでも置いておいてほしいです。
同業……クリエイターさん向けにひとつ述べるなら、気を遣ったのは操作性ですね。どんな物を作る時も私が最も気にする部分なのですが、プレイにストレスを感じさせないように気をつけています。思うように動かなかったり、紛らわしくて間違えてしまったりというのは、プレイヤーを困らせるだけです。不快感を与える為に公開している訳ではないので、公開する以上、操作性に気を遣うのは制作者の義務だと考えています。
制作の指針として、私の信条とも言えるものがあります。それは「自分で楽しめるゲームを作る」ということです。そうすれば、たとえどれだけ評価されなくても、世界中で最低一人は面白いと思ってくれるのですから。
ユーザにお勧めする遊び方
「自分で考えて」下さい。
これは、ゲームの謎解きや敵の倒し方を攻略情報等に頼るなという意味ではありません。もちろんゲームですから、指針はある程度決まっていますし、楽なやり方だってあります。わからなければ攻略情報を探るのも遊び方のひとつでしょう。ですが、それをなぞるだけのことはやめましょう。それは最適解ではないかもしれませんし、正しいとも限りません。人を信じるのも結構ですが、鵜呑みにしてはいけません。宗教と同じことです。参考にはしても、盲信してはいけません。
考えるのは面倒くさいことです。労力が要ります。人は楽な方に流れます。だから、優劣がなければ、人間は自然と選択肢がない道を選びます。自ら、自由を放棄してしまうのです。けれど、それに慣れてしまってはいけないと、私は思うのです。コレはただのゲームですが、「考えて」プレイしてもらえるように多くの場所で自由度を持たせています。
例えば、アイテムはすべてを取る必要はありません。15%以下しか取らずともクリアできます。最初のプレイでは300分程度かかるでしょうが、パターンを突き詰めれば40分でクリアできます。上級者向けにエキストラステージを用意していますが、それもアイテム50%で到達できますし、100分でクリアした方もいます。それらを達成するのは一筋縄ではいかないでしょう。相応の「考えた」プレイが必要です。
その労力への報酬というわけではありませんが、達成したオマケとしてギャラリー等を閲覧できるようになっています。ですが、それ以上の達成感をあなたは得るはずです。そんな些細な「意思決定」が、生き方であり、人生になると考えています。
最初に「何の為に生きるのか」という問いを挙げました。同様に「何の為に仕事をするのか」と問われれば、「生活、金の為」と答える人は多いでしょう(かく言う私も本業はそのクチです)。その場合、自分自身の「意思決定」ではなく、他人の「意思決定」に動かされることが多い。そしてそればかりだと、やがて自由から離れ、「何の為に生きるのか」ということを見失うかもしれません。そうならないよう、日常でも些細な「意思決定」を意識してもらえれば、少しは生きる糧になるのかなと思っています。
(えおなゆ)