読み応えのある力作サウンドノベル。ゲームで使用されるイラストは、枚数そのものはそれほど多くはないが、見せ方や使い方の演出がよく、大いに作品を盛り上げている。一部、苦手なポーズや表情と思われるものを除き、イラストの出来もよい。場面場面で効果的に使われるBGMも印象深い。シナリオは、出だしはドタバタ系のラブコメタッチで、アマチュア無線という、いまとなってはめずらしい題材を上手に生かしている。登場人物もみな個性が際立ち、やり取りが楽しい。
後半は一転して、ややシリアスな展開となり、「このあと、いったい直哉と紗奈の関係はどうなるのか」と、ハラハラドキドキさせられる。最後まで間延びすることなく、楽しく読むことができた。
強いて難を挙げるとすれば、「もっと長く二人の物語を読みたかった」ということだろうか。ドラマとしては過不足なく、きちんとできあがっているのだが、展開がストレートなため、かなりあっさりサクサクと進んでしまう。もちろんそのテンポのよさが「子守唄を貴方に…」の魅力のひとつなのだが、読者というものは欲深い。「もっと紆余曲折してもいいから、ひとつでも多くのエピソードを読みたい」と思ってしまった──つまり「それだけおもしろかった」ということだ。
(秋山 俊)