2003年のベストオンラインソフトとして、筆者は「セキュアファイルサーバ」を推薦したい。このソフトは、ネットワーク上でファイルを転送する際、「SSL」と呼ばれる方法を使うことで、データを暗号化した状態で転送する機能を持つ。一般的なWeb(HTTP)やFTPでも、ファイルやディレクトリにパスワードをかけることで、ある決まった人(あるいはグループ)にしか、ファイルをアクセスさせないようにすることはできる。しかし、これらの方法では、実際に転送されるデータは暗号化されていないため、仮にパスワードがわからなくても、流れているデータさえ盗聴できれば、ファイルを盗み出せる。盗聴によって、パスワード自体も漏れてしまう。これに対し、「セキュアファイルサーバ」が用いるSSL通信では、ユーザID、パスワード、そして実際に転送されるファイル自体のすべてが暗号化されて転送されるため、仮に第三者がネットワークを盗聴できたとしても、ファイルの内容やパスワードを盗み出すことはできない。つまり、「セキュアファイルサーバ」を使うことで、社内ネットワークなどのローカルなネットワーク内はもちろん、インターネット上の公開サーバを使った場合でも、安全にファイルを配布できるようになる。
特殊なプロトコルを用いるからといって、ソフトの使い方まで特殊になるわけではない点にも注目したい。「セキュアファイルサーバ」で公開されるファイルは、ごく普通のWebブラウザでダウンロードすることが可能だ。Webブラウザ経由で、ユーザがファイルをアップロードすることもできる。もちろん、アップロード時にもファイルは暗号化されるし、このようにしてアップロードされたファイルは、パスワードを持っている他の人がダウンロードすることも可能。つまり、通常のインターネットファイル保存サービス(インターネットディスク)と使い方はまったく同じなのだ。
唯一違う点といえば、サーバのURLを指定する際、「http://〜」ではなく、「https://〜」となることくらいだろう。このように指定すると、ブラウザのステータスバーには「鍵」マークが表示されるが、これにより「安全な」通信を行えていることがわかる。
「セキュアファイルサーバ」のプログラム自体は、Windows 2000/XP上では「サービス」として動作する。このため、コンピュータにログオンしていない状態でも利用できる。画面の構成は、ファイルやフォルダが色分け表示されるなど、見やすさに配慮されており、好感が持てる。
筆者が「セキュアファイルサーバ」を選択した理由であるが、このソフトが「今年のネットワーク接続環境の変化」を最も顕著に反映したものである、と思えたからだ。今年一年を振り返ってみると、世間はまさに「ブロードバンド接続花盛り」であった。その中でも特に目立っていたのが、FTTH(光ファイバ接続)の躍進である。昨年までは、常時接続のインターネット接続といえば、ADSLやCATVといったメタル線が主流であったが、今年は都市部を中心にBフレッツなどの光ファイバ接続が増加しはじめ、最大100Mbpsという高速性を享受している人も多い。
実は、筆者宅でもすでにBフレッツが開通している。実際に使ってみると、下りが高速なのは当然として、上りの転送速度も高速で、しかも安定した接続ができるのが印象的だった。これは「自宅でサーバ」を構築しやすい、ということを意味している。主にファイルを他のユーザに配布することの多いサーバでは、下りももちろんだが、むしろ上りの速度も重要だ。安定した接続、不意に切断しないこともまた必要である。つまりFTTH接続は、まさに「サーバ向け」にぴったりなのだ。
こう考えると、「セキュアファイルサーバ」は、まさに光接続の申し子のようなソフトといえるのではないだろうか。光接続が普及していない状況では、自らサーバを構築して、ファイルを配布しよう、などと考える人はごく少数に留まっていたに違いない。
ベクターのサイトを見てもわかるように、オンラインで配布されるソフトには非常にたくさんの種類がある。しかしそれらの中で、今回紹介した「セキュアファイルサーバ」のような、サーバ構築型のソフトはまだまだ比率としては少数派だ。サーバソフトは、通常のソフトに比べて設計・制作が難しいという理由もあるだろうが、やはり「必要を感じている人の割合」がまだまだ少ないためであろう。
今後、FTTH接続がより多くの人に広まるにつれて、自宅でサーバを立てたいという人はどんどん増えてくるはず。その結果、サーバ構築型のソフトはいまよりもさらに増加してくるに違いない。「セキュアファイルサーバ」は、まさにそうしたサーバ型ソフトの先鞭的存在だ。